モノーラルLPのイコライザーカーブについて

セブン再生工房

1.イコライザーカーブについて

これ以下は参考としてお読みください。


3.定数計算について

(1) RIAA

RIAA
では
C2*R2=75μs
C1*R2=318μs
C1*R1=3180μs
これからカットオフの周波数を計算すると
f=1000000/2πCR
なので
f=1000000/2*3.14*75=2123Hz
f=1000000/2*3.14*318=500Hz
f=1000000/2*3.14*3180=50Hz
ここから各定数を計算してみます。
R2
は通常2075kΩあたりにとるようですから、ここでは金田式アンプと同じく51kΩに設定します(これはほぼ1kHzでのゲインの設定となります。対アースの抵抗R4470Ωとすると51000+470/470=110倍(概算))(図3)。
C2[pF]=75[μs]*1000/51[kΩ]=1470pF
・・・C21500pFとします。
C1
は C1=318[μs]/R2から
C1=318/51000=6235pF
ですが、ここではRCとも並列の接続なので補正する必要があります。時定数の比はC1/C2=4.24ですが、実際のCC1*C2/(C1+C2)となっていますのでこの比率は3.24となります。これで計算しますと
C1=1500*3.24=4860pF
なので、5000pFとします。上記金田式アンプでは5100pFとしていますね。
R1[kΩ]=3180[μs]*1000/C1[pF]=636kΩ
・・・ここはオープンゲインの上限に近いので所定のカーヴに近くするため通常大きめに設定しますが、金田式アンプでは820kΩに設定してあります。これはLowLimitでのゲインを確保するためか、カップリングコンデンサによる低域の減衰を考慮したかもしれませんが、オープンゲインの余裕からみると若干高めであるような気がします。ただ可聴帯域ではほとんど差は出ないでしょう。
 クローズドゲインをあまり高くしないのならば(R247k39kあたりにとると)、R1750kとか680kで済み、計算上の数値に近づきます。


(2) NAB

C2*R2=100μs
C1*R2=318μs
C1*R1=2243μs
f=1000000/2πCR
なので
f=1000000/2*3.14*100=1592Hz
f=1000000/2*3.14*318=500Hz
f=1000000/2*3.14*2243=71Hz
R2
51kΩ
C2[pF]=100[μs]*1000/51[kΩ]=1960pF
・・・C22000pF
C2=318[μs]/R2
に補正を加え、C1=4720・・・4700pF
R1
は R1[kΩ]=2243[μs]*1000/C1[pF]=477kΩ・・・470 kΩ

(3) Columbia/LP

高域はNABと同じ1592HzRIAAより500Hz程低い。
低域はColumbia500Hz/100Hzとして時定数を計算すると
100=1000000/2*3.14*CR
 CR=1592μs
C2*R2=100μs
C1*R2=318μs
C1*R1=1592μs

R2=51kΩ
C2=2000pF
C1=4700pF
R1[kΩ]=1593[μs]*1000/C1[pF]=339kΩ
・・・R1=330kΩ


(4) ffrr

高域はf=1000000/2*3.14*50=3185Hz。時定数から計算すると一番上の表の3000Hzより若干高めに出ますね。3000Hzとすると53μsです。
低域は500Hz/125Hzとして時定数を計算すると
125=1000000/2*3.14*CR
 CR=1273μs
C2*R2=50μs
C1*R2=318μs
C1*R1=1273μs

R2
51kΩ
C2[pF]=
・・・50[μs]*1000/51[kΩ]=980pF
C2=980pF
のときC1=C2*5.36=5360・・・5400pF
R1[kΩ]=1273[μs]*1000/C1[pF]=236kΩ
・・・R1=240kΩ


 以上4種類のR1は、RIAAこそ低域の上昇が大きいので(アンプのオープンゲインに近づくので)計算より大きめにする必要がありますが、他はほぼ計算通りでよさそうです。


(5) AES

高域は時定数63.6μsから 1000000/2*3.14*63.6=2504Hz
R2
51kΩとして
C2[pF]=
・・・63.6[μs]*1000/51[kΩ]=1247pF・・・1000+220pF=1220pF
問題は低域です。他のカーブでは低域にリミッターがかかっていますが、AESSPと同じくリミッターがありません。
それでR1を大きく2MΩにとってみます。
次にturnover400Hzから、400=1000000/2*3.14*CR CR=400μs
C1
・・・6800pFとします。

 この数値でのシミュレーションでは低域Limit25dB、高域が10kHz-12dB



(6) Old RCA

 これはAESよりさらに低域上昇が大きい。かなり特異なカーブに見えます。定数も結構混乱しているようで結局どうだったのかはよくわからないようです。ただ、Turnover800Hzという定数は疑問です。1kHzを基準(0dB)として800Hz3dB上昇させるのは1次フィルターではできません。更に100Hz+20dBとなるためには6dB/octでまっすぐ1kHzまで落とさなければなりません。
 実際に800Hz+3dBのカーブをグラフに落としてみると、事情が少し見えてきます。ここでは1kHz+2dB1.52kHz0dBとなる曲線が自然で、この時低域は6dB/octでまっすぐ上昇したとして約+18dB。(実際はゲインに限りがあるから低域のゲインをあまり大きくするのは難しい)
高域はAESと同じとすれば10kHz-10dBとなります。
 実はこの曲線は他のカーヴが1kHz0dBとしているところをほぼ2dBゲインを上げたものに他なりません。全体を2dB程落としてみるとTurnover550Hz位、Rolloff=AESとして2500Hzとなります。この時10kHz-12dB
 RCAの定数が混乱しているのはこの辺の事情からではないでしょうか。カーブそのものは変わらないのに基準である0dB-1kHzがずれているだけで表記が変わってしまいます。実測でカーブだけを観測すれば2dB程のゲイン増は全く関係のない問題です。
 だから、1kHz0dBとすればTurnover600HzRolloff2500Hz-12dB at 10kHz)となり、1kHz2dBほど高いところにとればTurnover800HzRolloffは約3500Hz-10dB at 10kHz)ということになります。これは聴感ではRIAAと比べてもそれほど違和感がないのではないでしょうか。高域の時定数に75μsを採用すればほとんどRIAAカーブと同じになります。RIAARCAを基準として決められたことと符合しているように思えます。


 1kHz0dBとしてTurnover 600Hzを採用すると
CR=1000000/2*3.14*600
 265μsとなります。
問題はゲインを2dB程下げなければならないことです。
R2
を2割ほど削って51kΩから39kΩとしてみます(計算上110⇒84倍)。
C2[pF]=1220pF

C1=5700pF
とします。
R1[kΩ]=2MΩ

 これで100Hzでは約+16dB10kHzで約-12dBとなります。

 低域はRIAA、高域はAES(或いはRIAA)で代用可能だろうと思います。下グラフはこの定数で描いたものです。

 イコライザーカーブは50年代半ばにRIAAに統一されるまでは各社バラバラだったようで、同一レーベルでも違うカーブで作られた例もあるようです。

この時期に作られたLPを愛好されていらっしゃる方も多いようですが、どのように聴かれているでしょうか。
現在のRIAAカーブで再生すると少なからず元の音とは違ってくる筈です。
勿論当時の録音、再生とも現在とは状況が違いますから、必ずしも録音時のカーブでの再生が心地よく聞こえるとは限りません。
ただ、RIAA以外のイコライゼーションを施されたLPが実際にどのように鳴るのかは興味をかき立てられる点ではないでしょうか。

 ネット上で探してみるとこのイコライザーカーブを調べている方が結構いらっしゃって、それによると代表的なカーブの定数は以下のようになるようです(カーブによっては他にも色々説があるようです)。


(1) RIAA
おなじみ、現在(と言ってももう過去になりましたが)の規格です。

Curve

Turnover/Lowlimit

Roll off

RIAA

500Hz/50Hz(+20dB)

75μs-2120Hz(-13.75dB at 10kHz)

NAB

500Hz/71Hz(+16dB)

100μs-1590Hz(-16dB at 10kHz)

Columbia/LP

500Hz/100Hz(+14dB)

100μs-1590Hz(-16dB at 10kHz)

ffrr

500Hz/125Hz(+12-12.5dB)

50μs-3000Hz(-10.5dB at 10kHz)

AES

400Hz(30Hz+25dB)

63.6 or 75μs-2500Hz(-12dB at 10kHz)

Old RCA

600or800Hz(100Hz+20dB)

63.6 or 75μs-2500Hz(-12dB at 10kHz)

以上は今後の自作のために、あくまで机上で計算したものです。回路や他の要素が変われば当然違う数字が出てくると思います。実際に製作して聴いてみて違和感があるかも知れません。参考までということでご了解ください。













(図4) C1の値を3000pF7000pFまで1000pFステップで変化させた場合。
真中のカーブがほぼTurnover500Hz1kHzのゲインもこの値に影響されます。
(負荷=50kΩとしているので図1より低域のゲインが下がっているので注意。)
(図2) C2の値による変化。上から500pF500pFステップで2500pFまで。
高域は18dBあたりに収束しています。概算では470+3600/470=8.66=18.75dB
(図1) R1の値による変化。上から800kΩ100kΩステップで300kΩまで。
一番上のカーブがほぼRIAA特性。(負荷=220kΩ
:このシミュレーションではオープンゲインが若干低く75dBほどなので、低域のゲインが少々圧縮されているようです。金田氏のMJ95.6の記事によるグラフでは10Hzでもう2dBほど高い。これは掲載されているアンプのオープンゲインが低域で80dB以上あるためだと思われます。)
(2) NABカーブ

2.NF型アンプ回路について

(6) Old RCAカーブ

 これについては後述します。

(4) ffrrカーブ

DeccaLondonのイコライゼーションは色々あったようで、このグラフは低域+12dB、高域の10kHz-10.5dBとして作ったものです。このカーブは他のカーブと少々違って全域に渡りイコライズが浅いようです。当時の機器によっては低域をLP(500Hz/100Hz)に代用していますが、若干特性が違います。このレコードをRIAAで再生すると低域はかなり強調され、高域は減衰してしまうでしょう。
(3) COLUMBIA/LPカーブ

主なレーベルでは、Columbia(米Columbia、英Columbia)の他、Decca(米Decca)、HMV等。VanguardVOXWestminster等、12inchでは米Columbiaプレスを示すXTVマトリクスの盤で1955年以前のものはこのカーブかNABカーブではないでしょうか(VOXなどはNABカーブとジャケットに書いてありますが)。

高域はNABと同一。低域はNABより上昇が少ないようですが、中域でのうねりが少ないのはNABと同様で特徴的だと思います。これだけ似たカーブですと最低域を除けばNABとほぼ同一と言ってよいでしょう。

注: Turnover=低域上昇 / Roll off=高域低下 / Lowlimit=最低域の上昇を制限する

(図3) C2を外した場合。ゲインはほぼ40dB=100倍。
1kHz
では多少上昇カーブにかかっていて42dB強となります。
それぞれの素子が担っている役割を簡単に説明しますと、
R1
は低域のカーブの上昇限度(Lowlimit)に関わるもの。下図1はこのR1300k800kまで100kΩ毎にシミュレーションしたものです。上が800k、ほぼRIAA特性、下が300kDecca-ffrrの特性に近い。(注:上の各カーブのグラフは1kHz0dBとして表示していますが、ここから下の図は実際のゲインを伴うもので、1kHzで約42dBです。)

 C2は高域の減衰を決定するものです。図2

 R21kHz付近のゲインを設定しているものです。図3。実際は1kHzでのゲインは計算より2dB強大きくなりますので、厳密にこのゲインを設定したい場合はこの分を見込む必要があるでしょう。

 C1Turnover、つまり低域上昇点を設定しています。図4

 また上図の3.6kΩの抵抗は超高域の減衰を緩和するためのものです。超高域でNFBが大量にかかり不安定になるからです。
図2のグラフで高域の15kHzあたりから減衰が緩やかになっているのがその効果です。
左図は昔自作した金田式EQアンプのNFB回路部分の例です。

原回路はR1=820KR2=51KC1=5100pFC2=1500pFです。
(5) AESカーブ

このカーブは多くのSPカーブと同じく低域増幅に制限を設けていません。しかし70HzまではRIAAカーブとそう変わりがないように見えます。最低域をむやみに伸ばすのは再生上好ましくもありませんし、大体レコードそのものにこの帯域の音がどのくらい含まれているかも疑問ですので、他のカーヴで代用しても良いかもしれません。

高域の減衰はやや浅い。レーベルとしてはCapitolMercuryWestminster(赤レーベル後期のRCAプレスマトリクスのもの)等であるようです。
このカーブを使っていたレーベルは結構あったようです。
RIAAに比べると低域はイコライズが浅め、高域は逆に深めですが、200Hz1kHzにかけては直線に近いのでこの部分はむしろ深めのイコライズと言ってよいでしょう。このあたりの帯域は非常に耳につきやすい部分なので結構違う印象があると思います。

なお、同じくNABカーブと呼ばれるテープレコーダーのイコライゼーションはこのカーブとは違うようで、金田氏の「オーディオDCアンプシステム」下巻によれば50μs3180μsの時定数を持つ-6dBの下降曲線です。Turnoverがなく、従って途中のうねりがありません。
上図はRIAAカーブです。

簡単に説明しますと、Turnoverというのは基準の1kHzのレベルと低域方向に立ち上がっていく6dB/oct(緑の斜線)の交点、 Lowlimitというのは低域の上昇を制限するものでこの6dB/octの直線との交点(上表の「50Hz(+20dB)」は50Hz+20dBという意味ではない)、 Rolloffというのは高域の-6dB/octと基準のレベルとの交点です。

低域を増幅し、高域を減衰させるというのが基本で、低域は+20dBあたりで抑えています(20Hz+19.27dB)。高域は-6dBの下降そのものとなります(20kHz-19.62dB)が、設計上は可聴外の高域では若干丸めるのが普通です。


 以下のグラフは上の表の数値を使ってそれぞれのカーブを机上で作ってみたものです(イコライザーアンプの定数を変えてシミュレートしました。尚高域減衰は-20dB〜で丸めています)。あくまで3つの定数のみが頼りで厳密なカーブではないと思いますが、それぞれのカーブの特徴が窺えるのではないでしょうか。